「子ども食堂交流広場2017」は3月4日午後、松江市のいきいきプラザ島根で開かれ、社協や公民館の関係者や子ども食堂に関心のある一般の人、学生ら約70人が集まりました。島根県社会福祉協議会の主催、県、県教委などの後援で、「子ども食堂」や「ふれあい食堂」を運営している県内各地の8団体、11人が報告者として参加しました。島根県では、子ども食堂の活動がちょうど広がり始めたタイミングで、県社協によると、県内で子ども食堂を現在運営しているのは12団体。この日参加した8団体のうち、NPO法人眞知子農園の畑食堂(安来市)が最も早く昨年3月から、安来市の社会福祉法人せんだん会が「どじょっこ子ども食堂」を始めたのが同4月、他の6団体はいずれも昨年夏から冬に開設したばかりの団体でした。
この日は、それぞれの団体が始めたきっかけや現状と「困っていること」「応援して欲しいこと」を報告する形で進められました。
松江市内からは3団体が参加。「まつえこども食堂さいか店」を運営している市社会福祉協議会の清原正憲さんは、子ども食堂のことを自分たちがまず知りたいという職員の発案で、上司の実家である市内の寺の会館を借りて始めた、と報告しました。この経験を生かして来年度以降、こども食堂を立ち上げたい人・団体をサポートする事業を市社協として企画し、すでに予算化しているとのことでした。
高校生を中心に地域との交流事業をしている「たまゆメンバーズくらぶ」からは前会長の渡部史人さんらが出席しました。クリスマスにちなんだイベントとして昨年12月に公民館ホールで「たまゆ子ども食堂」を開催し、とても好評だったといいます。専門学校生時代から同くらぶで活動し、まだ20歳代という渡部さんは「子どもの食の問題に、若者自身が関心を持ち行動を起こすことが必要だと考えてやってみた。今後、学校の休み期間に年数回開きたいと思っているが、実際どうやって続けていけばいいか悩んでいる」と報告しました。
松江市内の老人保健施設を借りて昨年8月から毎月1回開いている「なないろ食堂」は、社協やJAしまね、生協しまねなどで作る運営委員会が設置。事務局長の吉川郁子さんは「当初は広報に苦労した。食事作りに子どもが参加することを原則にし、食を中心にした子どもの居場所として運営している」と話しました。
浜田市で「はまだふれあい食堂こくふ会場」を運営している実行委員会代表の細川豪さんは、地元の協力を得るための試行錯誤を紹介しました。地元の小学校と相談して、名称を「子ども食堂」から「ふれあい食堂」に変え、「子どもの孤食対策」という言葉もチラシから削りました。そうして児童240世帯にチラシを配ることができたのですが、「その学校からの参加はゼロだった」といいます。ただ、地域には孤立した高齢者がたくさんいて、そうした高齢者は食堂を楽しみにしているそうです。「子どもは集めるのに苦労しているが、お年寄りは当日朝早くから集まる。3世代、4世代のふれあい食堂、という方向性は間違っていないと思う」と話しました。
大田市の「おおだ子ども食堂」は、学童保育をしている教会の協力を得て昨年7月から月1回開催、コンスタントに50人くらいの子どもたちが参加し、リピーターも増えてきているといいます。実行委員会代表の横原治さんは「地域の小学校の理解を得て、520人の児童全員にチラシを配れている。学童の保護者の方もボランティアで参加してもらっている」と報告しました。地域の小中学校からの協力がまだ得られず、チラシを配れていない他の団体の参加者からは、ため息が漏れていました。
安来市のNPO法人眞知子農園が運営している畑食堂は、同農園の畑で育てた野菜を使って畑の中や古民家で実施。同法人の西村眞知子理事長は「すべての子どもたちにとって居心地のいい場所を作りたい」と話しました。同市の社会福祉法人せんだん会は、就労継続支援施設ワークセンターやすぎ内にあるカフェグリルを使って毎週日曜に「どじょっこ子ども食堂」を開いている。ワークセンターやすぎ所長の加藤雅樹さんは「認知度がまだ低いのが悩みです」と報告しました。
江津市で「お茶のま食堂」を運営する事務局の冨金原真慈さんは寺の住職。冨金原さん、一緒に参加した同僚の渡辺諭さんはともに30歳代だ。「子ども食堂と言うより世代を超えたふれ合いの場として始めた。月一回の開催だが、毎回やるのがしんどくなっている。いろんな人に参加して欲しい」と訴えました。
議論では、小中学校を始めとした地域との関係をどう構築するかがとても難しいことを、多くの団体が指摘しました。また、本当に支援が必要な子どもにもっと来て欲しいが、どう呼びかければいいか分からない、といった声も出ました。司会役の県社協地域福祉部長の城代高志さんは「『子ども食堂』=『貧困』のイメージが足かせになっている。地域の学校、公民館などとの連携が課題だ」とまとめ、助言役のNPO法人フードバンク山梨理事長の米山けい子さんに発言を求めました。米山さんは「世代間交流なのか、居場所づくりなのか、貧困対策なのか、それぞれの組織が何を目指しているのかはっきりさせた方が良い。また、食堂運営団体同士の横のつながりがこれからはもっと必要ではないか。ノウハウなどの情報交換ができる」などと話しました。
一方、学校との連携については、「家庭の情報は学校が一番持っているが、プライバシーの問題で直接接触できない。政策的なアプローチが必要ではないか」との声も上がりました。
今回のイベントの事務局を務めた県社協の岩崎正志・地域福祉部長代理は「民生委員との連携も大事なのだが、食堂に来たいと思っている親子にとって、地域に住む民生委員がいることが壁になるケースもある。ケースバイケースで本当に難しい」と話していました。
このほか、食品衛生法上の問題、営業届けなどをどうクリアすれば良いか、などの疑問がいくつかの団体から出されました。これについては、岡山県などいくつかの自治体が独自のガイドラインを作り始めている、といった情報が示されました。これを受け県社協から、島根県にも働きかけていきたい、との表明がありました。
最後に米山さんから、縁結びの神である出雲大社を引き合いに「子どもたちのために何ができるか、自分たちで考えていくのが大人の責任。みなさんは、子ども食堂の縁をこれからも大切にして活動を続けて欲しい」との激励の挨拶がありました。